監修:弁護士 佐々木康晴 菅原・佐々木法律事務所代表
仙台弁護士会所属・大崎市行政不服審査委員・公益社団法人おおさき青年会議所理事長
消費者問題対策特別委員会委員・宮城県消費生活相談アドバイザー弁護士・みやぎ青葉の会事務局・東北生活保護利用支援ネットワーク事務局
後遺障害とは?
交通事故によって負った傷害が、治療をこれ以上続けても完治する見込みがなくなり、これによって労働能力を喪失した状態になった場合、後遺障害による逸失利益や後遺障害慰謝料等の賠償金の請求をすることになります。
まずは、損害保険料率算出機構による後遺障害等級認定に基づいて慰謝料、逸失利益等の損害賠償を請求しますが、認定された等級にこだわらずに、これに基づかない請求をすることもあります。
以下の点が後遺障害による損害の賠償請求においてポイントになります。
- 症状固定しているか
- 後遺症と交通事故の因果関係があるか
- 後遺症の症状が医学的に認められているか
- 後遺症により労働能力の喪失を伴っているか
- 自動車損害賠償保障法施行令(自賠法施行令)の等級に該当しているか
後遺症と後遺障害の違い
「後遺症」とは、交通事故によって受けた傷害をこれ以上、治療を続けても回復する見込みがない症状のことです。
一方、「後遺障害」とは、後遺症の症状のうち、労働能力の喪失を伴うもののことです。自賠責保険では、このような後遺症の症状に応じて等級を分類しています。認定された等級によって後遺症による損害の賠償金の金額が大きく影響を受けます。
- 後遺症
- 治療を続けても回復する見込みのない症状のこと。
- 後遺障害
- 交通事故によって受けた精神的・身体的な傷害が、治療を続けても良くも悪くもらない状態となり、それにより労働力の低下や喪失を伴うもの。
後遺障害の症状と等級
交通事故で問題となりうる「後遺障害」の症状と、後遺障害の等級をご紹介します。
後遺障害の症状
- むち打ち
- 追突事故などにより首に大きな力がかかったことにより生じる障害です。診断書には、頸椎捻挫、頸部捻挫、頸部損傷、頸部挫傷、外傷性頸部症候群などと記載されることが多くあります。
- 脳脊髄減少症
(低髄液圧症候群) - 体に強い衝撃を受けたことで髄液が漏れ出てしまい、頭痛やめまい、首の痛み、耳鳴りなどの症状を伴う疾患です。
- 高次脳機能障害
- 事故などにより脳が部分的に損傷を負い、言語、記憶等に障害が生じた状態です。感情や行動が抑制できなくなるなどの精神症状が生じることもあります。
- 外貌醜状
- 頭部や顔面部など人目につくような部位に傷が残ってまうケースのことです。手術による痕も認められることがあります。
- 上肢機能障害
- 腕、手指、肩など上肢の一部もしくは全部を失う欠損障害や間接の可動域が失われる機能障害です。
- 下肢機能障害
- 脚や足指などの下肢の一部もしくは全部を失う欠損障害や間接の可動域が失われる機能障害です。
後遺障害は症状や外傷の程度によって等級が変わります。後遺障害等級は慰謝料や賠償金の目安となります。
介護を要する後遺障害の等級
等級 | 後遺障害 |
---|---|
第1級 | 1.神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 2.胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
第2級 | 1.神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 2.胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
後遺障害の等級
等級 | 後遺障害 |
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第1級 | 1. 両眼が失明したもの 2. 咀嚼及び言語の機能を廃したもの 3. 両上肢をひじ関節以上で失ったもの 4. 両上肢の用を全廃したもの 5. 両下肢をひざ関節以上で失ったもの 6. 両下肢の用を全廃したもの |
第2級 | 1. 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの 2. 両眼の視力が0.02以下になったもの 3. 両上肢を手関節以上で失ったもの 4. 両下肢を足関節以上で失ったもの |
第3級 | 1. 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの 2. 咀嚼又は言語の機能を廃したもの 3. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 4. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 5. 両手の手指の全部を失ったもの |
第4級 | 1. 両眼の視力が0.06以下になったもの 2. 咀嚼及び言語の機能に著しい障害を残すもの 3. 両耳の聴力を全く失ったもの 4. 1上肢をひじ関節以上で失ったもの 5. 1下肢をひざ関節以上で失ったもの 6. 両手の手指の全部の用を廃したもの 7. 両足をリスフラン関節以上で失ったもの |
第5級 | 1. 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの 2. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 3. 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 4. 1上肢を手関節以上で失ったもの 5. 1下肢を足関節以上で失ったもの 6. 1上肢の用を全廃したもの 7. 1下肢の用を全廃したもの 8. 両足の足指の全部を失ったもの |
第6級 | 1. 両眼の視力が0.1以下になったもの 2. 咀嚼又は言語の機能に著しい障害を残すもの 3. 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 4. 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 5. 脊柱に著しい変形又は運動障害を残すもの 6. 1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの 7. 1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの 8. 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指を失ったもの |
第7級 | 1. 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの 2. 両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 3. 1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 4. 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 5. 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 6. 1手のおや指を含み3の手指を失ったもの又はおや指以外の4の手指を失ったもの 7. 1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの 8. 1足をリスフラン関節以上で失ったもの 9. 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 10. 1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの 11. 両足の足指の全部の用を廃したもの 12. 外貌に著しい醜状を残すもの 13. 両側の睾丸を失ったもの |
第8級 | 1. 1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの 2. 脊柱に運動障害を残すもの 3. 1手のおや指を含み2の手指を失ったもの又はおや指以外の3の手指を失ったもの 4. 1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの 5. 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの 6. 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの 7. 1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの 8. 1上肢に偽関節を残すもの 9. 1下肢に偽関節を残すもの 10. 1足の足指の全部を失ったもの |
第9級 | 1. 両眼の視力が0.6以下になったもの 2. 1眼の視力が0.06以下になったもの 3. 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの 4. 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 5. 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの 6. 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの 7. 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 8. 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり,他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 9. 1耳の聴力を全く失ったもの 10. 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 11. 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 12. 1手のおや指又はおや指以外の2の手指を失ったもの 13. 1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの 14. 1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの 15. 1足の足指の全部の用を廃したもの 16. 外貌に相当程度の醜状を残すもの 17. 生殖器に著しい障害を残すもの |
第10級 | 1. 1眼の視力が0.1以下になったもの 2. 正面を見た場合に複視の症状を残すもの 3. 咀嚼又は言語の機能に障害を残すもの 4. 14歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 5. 両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 6. 1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 7. 1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの 8. 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの 9. 1足の第1の足指又は他の4の足指を失ったもの 10. 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの 11. 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
第11級 | 1. 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 2. 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 3. 1 眼のまぶたに著しい欠損を残すもの 4. 10歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 5. 両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 6. 1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 7. 脊柱に変形を残すもの 8. 1手のひとさし指、なか指又はくすり指を失ったもの 9. 1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの 10. 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
第12級 | 1. 1眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの 2. 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの 3. 7歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 4. 1耳の耳殻の大部分を欠損したもの 5. 鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの 6. 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 7. 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの 8. 長管骨に変形を残すもの 9. 一手のこ指を失ったもの 10. 1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの 11. 1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの 12. 1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの 13. 局部に頑固な神経症状を残すもの 14. 外貌に醜状を残すもの |
第13級 | 1. 1眼の視力が0.6以下になったもの 2. 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの 3. 1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの 4. 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 5. 5歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 6. 6手のこ指の用を廃したもの 7. 1手のおや指の指骨の一部を失ったもの 8. 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの 9. 1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの 10. 1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの 11. 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
第14級 | 1.1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの 2. 3歯以上に対し歯科補綴を加えたもの 3. 1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 4. 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 5. 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの 6. 1手のおや指以外の手指の指骨の一部を失ったもの 7. 1手のおや指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸することができなくなったもの 8. 1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの 9. 局部に神経症状を残すもの |
【備考】
- 視力の測定は、万国式試視力表による。屈折異状のあるものについては、矯正視力について測定する。
- 手指を失ったものとは、おや指は指節間関節、その他の手指は近位指節間関節以上を失ったものをいう。
- 手指の用を廃したものとは、手指の末節骨の半分以上を失い、又は中手指節関節若しくは近位指節間関節(おや指にあっては、指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。
- 足指を失ったものとは、その全部を失ったものをいう。
- 足指の用を廃したものとは、第1の足指は末節骨の半分以上、その他の足指は遠位指節間関節以上を失ったもの
又は中足指節関節若しくは近位指節間関節(第1の足指にあっては、指節間関節)に著しい運動障害を残すものをいう。 - 各等級の後遺障害に該当しない後遺障害であって、各等級の後遺障害に相当するものは、当該等級の後遺障害とする。
宮城県で後遺障害の認定を受けるには
損害保険料率算出機構による後遺障害等級の認定が必要になります。
後遺障害認定の申請方法
後遺障害等級認定の申請方法には、加害者側の保険会社に申請手続きを一任する「事前認定」と、被害者側で申請手続きを行う「被害者請求」の2つの方法があります。
- メリット
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- 手間がかからない
- デメリット
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- 被害者に有利な書類が提出されているか不透明
- メリット
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- 被害者に有利な資料を提出できる
- 示談前に自賠責限度額の先取りが可能
- 透明性が高い
- デメリット
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- 時間・手間がかかる
- 書類取得にかかる費用を負担
「被害者請求」は、弁護士に依頼することも可能です。交通事故に精通した弁護士が被害者の代わりに手続きを行うことで、有効な書類を提出することができ、適正な認定結果を受けられる可能性が高まる場合があります。認定結果によって、慰謝料などの賠償金が大きく影響を受けます。
事前認定をすべきか、被害者請求をすべきかは、事案の内容によりますので、弁護士にご相談ください。
後遺障害認定の流れ
等級認定には「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法がありますが、基本的な流れは一緒です。
step1
- 症状固定の
診断を受ける -
症状固定の診断を受けたら医師に後遺障害診断書の作成を依頼します。
step2
- 診断書等の
送付 -
後遺障害診断書を取得後、自賠責保険会社へ診断書等必要書類を送ります。
step3
- 後遺障害等級の
認定 -
自賠責保険会社が等級の認定を行います。
step4
- 後遺障害等級
結果通知 -
保険会社より被害者へ後遺障害等級の判定結果が通知されます。
後遺障害認定の結果に納得できない場合は、 自賠責保険に対して後遺障害認定の再審査を求める 「異議申立て」という手続きをとることができます。異議申立てには期間や回数の制限はありません。
後遺障害等級が認定されるポイント
後遺障害等級の認定では、医師が作成する「後遺障害診断書」が重要なポイントになります。万が一、後遺障害診断書の記載内容に不備があったり、記入漏れがあったりした場合、本来認定されるはずだった等級が認められないこともあります。診断書に自分の症状がきちんと反映されているのか、しっかりと確認することが大切です。また交通事故に精通した弁護士に依頼することで、後遺障害診断書の不備や記入漏れなどの間違いを未然に防ぐことができます。
後遺障害等級が認定されない理由
後遺障害診断書の不備以外にも、「後遺症と交通事故との因果関係が認められない」、「入院・通院の治療期間が少ない」、「神経学的所見や医学的所見が乏しい」、「異常所見が認められない」、「自覚症状と他覚所見が一致しない」などの理由で認定されないことがあります。