夫婦のどちらか一方に不倫やハラスメントなどがあり、それが原因で離婚に至った場合には、被害を受けた配偶者は、他方配偶者に対し、慰謝料を請求することができる可能性があります。このページでは、離婚の慰謝料についての基礎知識と、慰謝料額算定における5つのポイントについて解説いたします。
監修:弁護士 田中 俊男
仙台弁護士会所属
離婚の慰謝料の基礎知識
離婚の慰謝料とは
「慰謝料」とは、精神的苦痛を受けたことに対する損害賠償として支払われる金員のことであり、その中でも、「離婚慰謝料」は、離婚原因である有責行為により精神的苦痛を受けたこと、及び、離婚により配偶者の地位を喪失すること、に対する損害賠償請求のことをいいます(なお、離婚しなければ、配偶者に慰謝料を請求できないというわけではありません)。
離婚の際に慰謝料が請求できるケースと出来ないケース
離婚慰謝料は、一方配偶者の有責行為が前提となりますので、離婚に至ったからといって、必ず請求できるものではありません。具体的には、以下のように分類することができます。
・不貞行為やDV等
典型的な例としては、不貞行為、DV、モラハラなどですが、その他にも、悪意の遺棄(長期に渡って生活費を渡さないなど)や、重大な事実について配偶者を騙していたケースなどもあります。このうち、不貞行為については、配偶者のみならず、不貞相手にも慰謝料を請求できる可能性があります。
・性格の不一致
離婚の原因として、性格の不一致を挙げる方は多いようですが、この場合、夫婦の一方に有責行為があるというわけではありませんので、離婚慰謝料を請求する権利は認められないと考えるのが一般的です。
・婚姻関係破綻後の不貞行為
夫婦の一方が不貞行為を行った時点で、すでに婚姻関係が破綻していたと考えられる場合には、法律上保護されるべき利益がないことになり、慰謝料請求は認められません。
ただし、婚姻関係破綻の判断は容易ではなく、例えば、夫婦が別居しているからといって、それのみで当然に婚姻関係が破綻していたと判断されるわけではありません。
・消滅時効の成立
離婚慰謝料の請求は、離婚の成立から3年(生命や身体を害された場合には5年)を経過すると、消滅時効により請求できなくなる可能性があります。
ただし、離婚成立時に有責行為の事実が判明していなかった場合には、当該事実が判明したときから、前記期間が経過するまで(あるいは当該行為から20年が経過するまで)の間は、請求することが可能です。
離婚慰謝料を請求する方法
・夫婦間での話し合い
離婚慰謝料を請求する方法として、まず最初に検討すべきは、夫婦間で話し合いでしょう。有責行為を行った者が、自らの非を認めているような場合には、話し合いにより離婚慰謝料を支払ってもらうこともある程度は期待が持てます。話し合いの場には、夫婦だけでなく、親族や知人に同席してもらうケースも多いようです。
・家事調停
夫婦間での話し合いでも、離婚慰謝料について折り合いがつかない場合には、家庭裁判所において、調停を行う方法があります。有責行為を行った者が、自らの非を認めていなかったり、話し合いに応じてくれなかったりする場合には、夫婦間での話し合いを行わず、家事調停の申し立てを行うケースもあります。家事調停では、中立的な立場の調停委員が間に入って話を進めてくれます。当事者が合意しなければ解決しないという意味では、夫婦間での話し合いと同様ですが、調停委員からの説得により、解決することも珍しくありません。離婚・親権・養育費・財産分与などと併せて話し合いを行うこともできます。
・裁判
話し合いによる解決が難しい場合に、互いに主張や証拠を出し合って、裁判官に判断してもらう手続きになります。離婚と併せて行う場合には、原則として、裁判の前に、調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。最も専門的な知識が必要な分野ともいえますので、弁護士に委任される方がほとんどかと思います。判決の言渡しまでに、1年以上かかることはざらですが、手続きの途中で、話し合いによる解決(和解)が行われることもあります。
慰謝料の支払い方法は?分割での支払いは可能?
法律上は、一括払いが原則となりますが、支払い能力などの関係で一括払いが困難な場合には、分割払いの合意をすることもあります。ただし、分割払いの期間が長期化するほど、途中で支払いが滞る可能性が高まりますので、可能な限り、短い期間での分割払いが好ましいといえます。
また、後になって「支払う義務はない」などと主張されてしまうリスクを回避するためにも、きちんと文書に残しておくことが重要です。その際に、記載すべき内容としては、以下のとおりです。
・慰謝料発生の原因
・慰謝料の総額
・慰謝料を分割で支払う分割回数
・分割金を支払う期限
・支払いが滞った場合の措置(例:支払いを怠った場合、残額を一括で支払う等)
離婚慰謝料算定の「5つのポイント」
離婚の慰謝料の算定は以下の「5つのポイント」によって決まります。
①有責行為の内容
②離婚前の夫婦関係
③婚姻期間の長さ
④子供の有無・年齢
⑤支払い義務者の社会的地位・資力
ポイント①有責行為の内容
慰謝料額を算定する上で、最も重要といっていいのが、有責行為の内容です。有責性が高ければ、その分慰謝料も高額になります。
例えば、不貞行為の場合、不貞行為の期間が長かったり、不貞行為の頻度が多かったり、さらには、不貞行為発覚後に二度と不貞を行わないと約束したにもかかわらず、その約束を反故にしたなどの事情がある場合には、慰謝料は高額になりやすいです。DVについても、行われた暴力等の内容や期間、頻度などにより、慰謝料額は増減します。
ポイント②離婚前の夫婦関係
有責行為の時点で、夫婦の関係であったかどうかも重要になります。特に、不貞行為の場合に問題となることが多いです。一般的には、夫婦関係が良好な場合の方が、有責行為による精神的苦痛は大きくなると考えられますので、その分、慰謝料も高額となる傾向にあります。
上述したように、不貞行為の時点で、婚姻関係が破綻していたような場合には、慰謝料請求自体が認められないこともありますし、破綻にまで至っていなかったとしても、婚姻関係が破綻に近い状態であったような場合には、慰謝料額も低くなってしまう可能性があります。
ポイント③婚姻期間の長さ
婚姻期間が長いほど、それに比例して精神的苦痛も大きくなると考えられますので、慰謝料も高額となる傾向にあります。
ポイント④子供の有無・年齢
婚姻関係が破綻することで、少なからず子供にも影響があります。とりわけ、離婚の原因が夫婦の一方の不貞行為や家庭内でのDV等であれば、その影響は大きいといえます。一般的には、子供が幼いほど、より影響を受けやすいと考えられていますので、その分、慰謝料額も高額となる傾向にあります。また、子供が離婚の原因となる不貞行為やDV等で、学校に通えなくなったような場合にも、慰謝料額の算定に影響することがあります。
ポイント⑤支払い義務者の社会的地位・資力
慰謝料の支払い義務者の社会的地位が高かったり、資力が多かったりする場合には、そうでない場合と比較して、慰謝料の金額も高額となる傾向にあります。
宮城県/仙台市での離婚慰謝料の相場とは?
ご相談者の方から「慰謝料の相場はいくらですか」という言葉をよく耳にしますが、上述のとおり、個別具体的な事情により異なるため、一概には言えないというのが正直なところです。
出来ることなら、お近くの法律事務所にご相談いただき、個別具体的な事情をお話しいただいた上で、弁護士からの助言を受けることをお勧めいたします。
もちろん、当事務所にご相談いただけるのであれば、親身になってアドバイスさせていただきます。
離婚慰謝料に関する解決例
ケース①離婚調停と不貞相手への慰謝料請求
妻の不貞が発覚したことで、離婚と不貞相手への慰謝料請求についてご依頼いただきました。
離婚については、調停を申し立て、粘り強い交渉の末に、お子さんの親権・養育費などに加えて、不貞の慰謝料50万円をお支払いいただきました。不貞相手への慰謝料請求においても、不貞相手が依頼した弁護士との示談交渉の末に、200万円をお支払いいただきましたので、合計250万円の獲得に成功しました。
ケース②不貞慰謝料を請求された事例
既婚者である男性と不貞行為に及んだことを理由に、男性の妻から慰謝料200万円を請求されており、何とか減額してほしいということで、ご依頼いただきました。
双方の言い分に食い違いが大きく、示談交渉は決裂し、裁判が行われることになりました。ですが、裁判の中でも、話し合いによる解決を図るべく、相手方側の弁護士との間で協議を重ね、最終的には、100万円以上を減額した金額を分割でお支払いする内容にて、早期に和解することができました。
離婚慰謝料や男女トラブルは、宮城県内3拠点の菅原・佐々木法律事務所へ
ご相談から解決までの流れ
step1
- 弁護士に相談
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離婚に限るものではありませんが、まずは法律事務所にご連絡の上、相談の予約をお取りいただき、弁護士と面談してご相談いただくことになります。弁護士に相談したからといって、依頼しなければならないわけではありませんので、お気軽にお問い合わせください。
step2
- 委任契約の締結
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ご相談いただく中で、弁護士に交渉・調停・裁判などをご依頼いただくことになりましたら、契約に必要や書類(委任契約書など)作成いたします。その際、弁護士費用についてもご説明いたしますので、ご安心ください。
step3
- 交渉等の開始
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委任契約締結後、委任契約に定めた委任事務処理(交渉・調停の申立て、裁判の提起など)を行います。必要に応じて、ご依頼者様にも状況をご報告し、協議をしながら進めていくことになります。
step4
- 解決
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交渉による解決や、調停・裁判の終了等により、弁護士による委任事務処理は終了となります。全ての事案で、ご依頼者様の意向に沿う結果を出すことができるわけではありませんが、可能な限り、ご依頼者様にご納得いただける解決を図るため尽力いたします。