はじめまして、弁護士・公認会計士の青山英樹と申します。

私は、前職の税理士法人勤務時代、その前に勤務した弁護士法人勤務時代に、多くの相続に関わる仕事をさせて頂きました。そこで、このブログの私の担当回では、しばらくの間、相続税法に関わる論点を紹介させて頂きたいと思います。

依頼者の方々から「税理士の先生と弁護士の先生で言っていることが違う。どちらが正しいのですか?」といった趣旨のご質問を頂くことがあります。答えは、「どちらも正しいのですよ。」ということが多いです。税理士の先生方も民法について正しく説明されているのですが、実は、民法と相続税法で取扱いが違う領域が幾つかあり、それが混乱の原因となっています。

主な論点としては、①養子、②相続財産の範囲(生命保険、退職金)、④土地や株式の評価、⑥生前贈与の範囲といった点です。

今回は、①養子がいる場合について、民法と相続税法の違いをご紹介いたします。

まず、民法上、養子縁組については、特に人数の制限はありません。これに対し、相続税法上は、(相続税の計算に際して)法定相続人に含める養子の数は、以下のとおり制限されています(相続税法15条2項、3項)。

(1) 被相続人に実の子供がいる場合       一人まで。

(2) 被相続人に実の子供がいない場合   二人まで。

そして、相続税法上、養子の数に制限が加えられている理由は、

(1) 相続税の基礎控除額

(2) 生命保険金の非課税限度額

(3) 死亡退職金の非課税限度額

(4) 相続税の総額の計算

については法定相続人の数をもとに相続税が計算され、法定相続人の数が多ければ多いほど、同じ相続財産の総額であっても、相続税額が低くなるからです。すなわち、仮に相続税の計算に際しても養子の数を無制限とすると、相続税を容易に低く抑える(またはゼロにする)ことが可能となってしまうからです。

具体的には、たとえば現在の相続税の基礎控除額の計算式は、

基礎控除額 =3000万円+(600万円 ✕ 法定相続人数)です。

法定相続人が増えれば増えるほど、基礎控除額が大きくなります。仮に相続税の計算上も養子の数に制限がないとすると、たとえば資産約6000万円を有する人が5人を養子にすれば、(実子がいないとき)基礎控除額は6000万円となりますので、相続税額はゼロとなります。そのような極端な節税を防ぐために、相続税法では養子の数の制限をされています(節税目的のための養子縁組が横行したため、昭和63年の税制改正により、相続税法上、法定相続人の人数は上記のとおりとされることになりました)。

なお、相続税法63条により、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、上記(1)又は(2)の養子の数に含めることはできません。

次回は、節税目的の養子に関連して、平成29年1月31日 最高裁第三小法廷(木内道祥 裁判長)の判決についてご紹介したいと思います。

以上